成島柳北「柳北奇文」を読む3

東隅ノ土百姓ヲ戒ム(明治9年8月12日)

こうした逆説的な文章を書かせたら天下一品ですね。
旧幕時代の御用道中に比するに「官員様ノ派出巡行」を問題にする。
旧幕時代はもうタダでやりたい放題、今の官員様は金を払っているのだから失礼のなきようにというわけだ。しかも多額の金を使っているんだから。

曰く
「試ニ退イテ算セヨ大臣参議一人一日ノ旅費ハ汝等ガ幾日ノ且活計ヲ立ツルニ足ルカ斯ル天淵月鼈(月とすっぽん・ゲツベツ)ノ相違アル貴キ官員様ヲ粗略ニ心得テハ仮令開明ノ世界別ニ御叱リテハ之ナキモ決シテ汝等の礼節ヲ尽セル者トハ謂フ可ラザルナリ」と。
ようするに官員等が巡行と称して莫大な金を使って旅行をしていることへの批判なんだが、それを百姓に向かって
「官員様の一日の旅費は君たちの生活費の何日分にもあたるように、官員様は君たちとは月とすっぽんの違いがあるんだから決して失礼があってはいけないよ。」と言っているのだ。

何時だったか、ある政治家が日本は世界平和に人を出さないで、金だけ出しているのはいかんといった発言をしたことがある。PKOの話だったと思う。それに対して今は亡くなった女性の料理研究家がいいことを言っていた。「その金は誰のものと思っていて発言しているんだ。庶民が働いて収めた税金だ。金を出すということは庶民の生活を提供していると同じなんだ。」と言った趣旨だったと思う。
この話も同じだろう。官員様の旅費は実は百姓が払っているんだけどね。
これを読むと本当に新時代とはわかりにくい時代ということになる。結局は金を搾り取られていることに変わりはありゃしねえんだ。なんか近代というのはようするに同じことをわかりにくにしただけかなって気がしてきます。
それを柳北は面白く書いている。流石です。

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