『日本古典文学総復習』41『古事談』『続古事談』

『古事談』を読む

今回はこの新日本古典文学体系で最後の配本となった『古事談』を取り上げる。これもまた説話集という事になるだろうか。それにしても大部なものである。もっとも続編も収められてはいるが、九百ページを超えるこの書は到底読了はできないがその概要を記しておく。

この『古事談』は、鎌倉初期の説話集ということになっている。源顕兼という人物の編集による。奈良時代から平安中期に至るまでの実に462の説話を収める。王道后宮・臣節・僧行・勇士・神社仏寺・亭宅諸道の6巻からなっていて、巻ごとに年代順で配列されている。文体は漢文が多いが、仮名交じり文もある。これは基にした資料を抜き書きするという方針によるものと思われる。したがって説話集と言うよりは一種の資料集といった趣となっている。という事は先行する文献からの引用が多いが、ほとんどが内容によらず客観的に収集する方針らしく、天皇を始めとする貴人に関してもその方針が変わらない。そういう意味でも一級の資料となっている。いわゆる正史とは違った人間性あふれる王朝史を見る事ができる。これまで見てきた仏教説話集とは違うわけである。

ではその一例を示しておく。

  (一 – 一七、一七)
 花山院御即位の日、馬内侍褰帳の命婦と為りて進み参る間、天皇高御座の内に引き入れしめ給ひて、忽ち以て配偶す、と云々。

ここで言う「配偶」とは「性交」のことだが、花山天皇が即位の時、馬内侍(当然女性)を御簾の内にいきなり引き込んで「やって」しまったという話。なんてことでしょう。

次はあの『枕草子』の作者、清少納言の晩年の話。

  (二 – 五五、一五四(庫一五五)
 清少納言、零落の後、若殿上人あまた同車して彼の宅の前を渡る間、宅の躰破壊したるをみて、「少納言は無下にこそ成りにけれ」と、車中に云ふを聞きて、本自桟敷に立ちたりけるが、簾を掻き揚げて、鬼の如くなる形の女法師、顔を指し出だす、と云々。「駿馬の骨をば買はずやありし」と云々。

清少納言の零落譚はこの他にも色々とあったようだ。

大部の書だけにこれだけでは物足りないが、ここらへんにしておくしかない。ただ、資料集として座右に置いておくべき書だ。

この項了

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