成島柳北「柳北奇文」を読む8

濹上の嘆(明治9年9月10日)

濹上すなわち隅田川流域の景勝地に近年訪れる人が少なくなったことを取り上げる。
しかし、この文意はそのことそのものにはないようだ。濹上に人が訪れなくなったことを嘆いているのではない。都会の人士が濹上を訪れる目的そのものの変化を嘆いていると言っていい。そしてそれは同時に新時代の人士の柳北への批判の反証となっている。

では、柳北への批判とはどういったものか?
柳北が
「風月ノ権ハ花柳ノ権ニ若ザル也山水ノ美ハ脂粉ノ美ニ敵セザル也」
と言うと、「風流自ラ任ズル騒人雅客」はおもいっきり次のように言って批判する。
「足下ハ文士ノ後ヘニ従ヒナガラ風流ノ情趣ヲ解シ得ズ濫リニ蕩子冶郎ノ口吻ヲ模擬スルカ」と。
即ち、風流のなんたるかをお前は知らない。すぐに花柳や脂粉を取り上げる遊び人の口真似をしているだけだと。

これに対し柳北はまず、濹上すなわち隅田川流域の景勝地がいかに春夏秋冬見るべき味うべきところが多いか言い、もちろんここに「脂粉」即ち花柳界の女性が加われば言うことはないが、それは一つの要素であり、要は濹上は単なる歓楽街ではないとする。
だが新時代の人士はそこを単なる歓楽街としてしか見ていない。新政府が以下のような御触れを出した途端に客が減ったのが何よりの証拠だとする。

「頃日官人貴族ノ酒色ニ耽リ挑達ノ遊ヲ為ス者ノ為メニ懲戒ノ法ヲ設ケタリ」
「遊客ノ愛妾狎妓ヲ携ヘテ酒楼ニ投宿スル者ハ挟梴官必ズ其ノ牀第(ネドコ)ニ就テ之ヲ鞠訊スト」

つまりは当時の官人貴族の遊びがひどかったために新政府が取り締まりに乗り出したというわけだ。これによって濹上の客が減ったということは、いかに当時の人士が濹上を歓楽街としてしか見ていなかったかという証拠だと。

柳北は言う

「噫妾妓ノ衾(衣偏に周)ヲ同ウスル無ケレバ濹上ノ風月モ敢ヘテ楽ムニ足ラザル耶曲眉豊頰ノ相追随スルニ非ザレバ濹上ノ山水モ亦賞スルニ足ラザル耶」と。

新時代の支配層の人士の遊びは要するに下品なのだ。もちろんここには江戸の遊びの自負がある。また、薩長の田舎侍への嫌悪がある。

「高尚ナル面貌ヲ装フ者ハ盡ク偽ナル耶」と。また、「彼ノ都人士ノ淫褻ナル断乎トシテ其レ信ズ可クシテ」とまで言っている。「ニセモノ」であり、「ワイセツ」であると。

結語

「何ゾ彼ノ偽風流客ノ瓢礮ト筆刀トヲ懼レテ黙々タルヲ得ンヤ噫」

黙っていられませんよね。今だってこんな風に感じること多いです。

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