『日本古典文学総復習』71『元禄俳諧集』

『元禄俳諧集』

年が改まって、暮れに続いて俳諧集3冊。先ずはこの『元禄俳諧集』。俳諧は元禄期に入って、いわば爆発的に流行する。すでに前回見たように芭蕉という天才が現れたのもその遠因の一つだろうが、芭蕉の俳諧とは趣を異にする俳諧も多く作られている。基本的には京都・大坂・江戸といった大都市で多くの俳諧の宗匠が現れていわばしのぎを削ったわけだが、それは地方の都市にも波及し、各地で俳壇が作られていった。ここはこうした当時の状況を知る選集を見ていくことになる。なお、次はこうした俳諧ブームを牽引した俳諧点者たちにも注目する。

「蛙合」

歌合的な句合わせ。しかも蛙の句を並べる。もちろん芭蕉のこの句が冒頭を飾る。

古池や蛙飛びこむ水のおと 芭蕉

対する句は

いたいけに蛙つくばふ浮葉哉 仙化

判定は引き分け。

「続の原」

上・下二巻。不卜の編になる。春夏秋冬の句合わせ集。冬の部は芭蕉が判定者。

 一二番 左 煤掃
何方に行てあそばん煤はらひ 挙白
     右 勝
煤とりて寺はめでたき仏哉 不卜

芭蕉の評は

両句滑稽のまことをうしなわず、感心わきがたく侍れども、目でたき仏哉、と云し句のいきほひ、猶まさりて聞え侍れば為勝。

とある。

「新撰都曲」

上・下二巻。池西言水の編になる。諸家の四季吟と言水自身の独吟歌仙を収める。
歌仙から三句のみを紹介。

人々に同じ様なし山桜
 何に濁るか春の日の滝
四阿も睦月は馬の爪打て

「俳諧大悟物狂」

鬼貫の編になる。鬼貫の句集だが、西鶴や来山ら当代大坂の歴々の俳諧も収る。
俳諧を一つ。

                鬼貫
うたてやな桜を見れば咲きにけり
 月のおぼろは物たらぬ色   才麿
酒盛の跡も春なる夕にて    来山
 名に聞きふれし浦の網主   補天
五月雨に預てとをるきみが駒  瓠界
 なを山ふかく訴状書かへ   西鶴

「あめ子」

之道の編になる。芭蕉等の歌仙、半歌仙、三句まで、発句を収める。
芭蕉・之道・珍硯の三吟から。

                翁
白髪ぬく枕の下やきりぎりす
 入日をすぐに西窓の月    之道
甘塩の鰯かぞふる秋の来て   珍硯

「元禄百人一句」

流木堂江水の編になる。当時著名な俳人百名とその発句を収める。

次の夜は唯ひとりゆくすずみ哉 江水
先たのむ椎の木もあり夏木立  芭蕉

「卯辰集」

北枝の編になる。金沢の俳壇の選集。芭蕉が金沢を訪れたのを契機に編まれた。上巻は四季の句集、下巻は俳諧集。

梢より海ゆく蝉の命かな  梅露

「蓮実」

賀子の編になる。書中に収める俳諧をすべて蓮の実の発句で巻く。

                賀子
蓮の実におもへばおなじ我身哉
 世にある蔵も露の入物  西鶴
名月の朝日に影の替り来て  同

「椎の葉」

才麿の編になる。大坂から須磨明石を経て姫路に赴きしばらく滞在した紀行集。もちろん発句・俳諧が収められている。

いづくへか月に馴たる葦の杖 空我
 すがる鳴夜を先二夜三夜  才麿

「俳諧深川」

才麿の編になる。芭蕉とその門人の江戸期の歌仙集。

 深川夜遊
                芭蕉
青くても有べきものを唐辛子
 提ておもたき秋の新ラ鍬  才麿
暮の月槻のこつぱかたよせて 嵐蘭

「花見車」

轍士の編になる。ただし匿名となっている。京・大坂・江戸の三都および諸国の点者(俳諧の宗匠)二一五名を遊女の位に見立てて論評した評判記。
芭蕉を高く評価。当時の点者一般の実態を暴露していたりするが、当時の俳諧の流行ぶりと全国的な俳壇を見渡せて興味深い。

2018.01.09
この項了

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