『日本古典文学総復習』46『中世和歌集鎌倉編』

再び和歌文学に戻る。万葉以来文学の中心だった和歌は『新古今和歌集』でいわば行き着く処まで行き着いた感があるが、その『新古今和歌集』前後の私家集を集めたのがこの巻だ。9種の私家集。私家歌合が収められている。和歌がどんな運命を辿ったかは文学史が教える処だが、この後中心を連歌に譲ってゆく。その後にはやがて俳諧へと短詩系文学史の中心を譲ってゆくわけだが、ここに収められた歌人たちの歌はその最後を飾るにふさわしいものなのだろう。今回は虚心に歌集を紐解く形で読んで行くことにする。ふと心にとまった歌を各1、2書き写すことにする。

『山家心中集』

西行晩年の最も小規模な自選詩華選

谷の底にひとりぞ松もたてりけるわれのみともはなきかと思えば

ここをまたわれすみうくてうかれなば松はひとりにならむとすらん

『南海漁父北山樵客百番歌合』

良経と慈円の私的な歌合

七十六番 山家
左 勝
をのれだにたえず音せよ松のかぜ花ももみぢも見ればひととき

なさけありて花のゆかりにとふ人は風にぞかかる春の山里

『定家卿百番歌合』

定家自ら自詠二百首を選歌し、百番の歌合に仕立てた書

八十五番
左 勝
忘るなよやどるたもとは変るともかたみにしぼる袖の月かげ

わかれても心へだつな旅衣幾えかさなる山路なりとも

『家隆卿百番歌合』

家隆自ら自詠二百首を選歌し、百番の歌合に仕立てた書

五十五番
左 勝
いたづらに人はしらでや暮すらんけふより我をおもひそむとも

しらすべき煙も雲にうづもれぬ浅間の嶽の夕暮の空

『遠島御百首』

承久の乱によって隠岐に配流された後鳥羽法皇が在島初期に詠出した百首

今日とてや大宮人のかへつらん昔語の夏衣かな

我こそは新島守よ隠岐の海のあらき浪風心して吹け

『明恵上人歌集』

三部からなる明恵上人の歌集。自選部分と高信という人物が編集した部分からなる

空イロノカミニエガキテ見ユルカナキリニマギルル松ノケシキハ

思アマリカクコトノ葉イロニイデバ空ノシグレヲ涙トハ見ヨ

『文応三百首』

後嵯峨天皇第二皇子宗尊親王の歌集

ときはなる松にも同じ春風のいかに吹けばかはなの散るらん

『中院詠草』

定家の子息為家の家集

むかしとてかたるばかりの友もなしみのの小山の松のふる木は

『金玉歌合』

伏見院と京極為兼の歌合。右が為兼、左が伏見院。

三六番

待わぶるその久しさの程よりはまだよひすぎぬ月ぞうれしき

とはれんも今はよしやの明がたもまたれずはなき月のよすがら

『永福門院百番御自歌合』

永福門院の詠作二百首を百番の歌合とした書

八十二番

契けりまちけり哀其時のことの葉残る水茎のあと

うかりしも哀なりしもあらぬ世の今になりてはみなぞ恋しき

この項了

2017.07.04

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