『日本古典文学総復習』19『源氏物語』1

『源氏物語』を読む1

また大部の作品が現れる。『源氏物語』だ。5巻構成。しかし前の『續日本紀』とは違ってこれまで相当つまみ食いはしてある。しかも与謝野晶子氏による現代語訳をKindleで読んでいる。こうなれば何事か書けそうだが、書くべきことが多すぎて何から書いて良いものやら迷っている。

さて、この作品は知らない人はいないほど有名だが、通読した人はそれほど多くないと思う。かくいう小生も実は原文では到底通読できていない。かなりつまみ食いはしているつもりだったが、今振り返るとそう多くの部分ではないことを改めて知った。この難渋な原文を読破するのは並大抵ではない。そこで現代語訳を通読してほしい。現代語訳では与謝野晶子氏のものが一押しだ。文法的に間違いが多いとかなんとか言われているらしいが、この物語を自分のものにして全文を現代語訳しているからすごい。
無料で読めるから是非読んでほしい。
そこでまずこの物語がどんな内容をもっているかその梗概を紹介するところから復習を始めたい。

『源氏物語』はこの大系では5巻に収められているが、54巻構成となっている。五四帖という。まずはその構成とあらすじを紹介しておく。実はネット上に各帖を一行でまとめたものを発見した。それを使わせてもらう。吉田裕子氏によるものだ。素晴らしい仕事だ。
nfinity0105.hatenablog.com/entry/2015/10/11/105631
大系一
桐壺 光源氏の誕生。母・桐壺更衣は帝のの他のきさき達からの嫉妬で病死。
帚木 光源氏17歳。ライバル頭中将らと恋愛談義。中流の人妻・空蝉との恋。
空蝉 空蝉宅に忍び込む光源氏だが、逃げられ、継娘・軒端荻を抱いて帰る。
夕顔 頭中将の元妻・夕顔と恋人になるが、夕顔は物の怪に襲われて急死。
若紫 初恋の人である義母・藤壺を妊娠させる。藤壺の姪・若紫を引き取る。
末摘花 頭中将と張り合いながら常陸宮の姫君を手に入れるが、不美人だった。
紅葉賀 父・桐壺帝と藤壺の子が誕生するが、実は光源氏との子である。
花宴 夜中、宮中で朧月夜と恋に落ちる。彼女が皇太子妃になる計画が破談。
葵 正妻葵上が男児出産。恋人の六条御息所の生霊で葵上急死。紫が妻に。
賢木 父・桐壺院が死に、藤壺は出家。朱雀帝の愛する朧月夜との関係が露見。
花散里 昔の恋人・花散里に会う。恋愛感情は最早ないが、話すと落ち着く存在。
大系二
須磨 朧月夜の件などで罰を受けそうになった光源氏は、自ら須磨に謹慎する。
明石 須磨から明石へ移動。滞在した家の娘・明石の君は光源氏の子を妊娠。
澪標 光源氏帰京。藤壺との子が冷泉帝として即位。明石の君が娘を出産。
蓬生 末摘花の家を偶然通りかかる。健気に自分を待ち続けた彼女に感動。
関屋 逢坂の関でたまたま空蝉と再会し、文を交換。夫の死後、空蝉は出家。
絵合 養女としていた六条御息所の娘が、頭中将娘と中宮の座を競い、勝利。
松風 明石の君が上京。三歳の娘を引き取って、正妻格の紫の上に育てさせる。
薄雲 藤壺が亡くなり、悲しむ光源氏。冷泉帝は自分の出生の秘密を知る。
朝顔 朝顔の宮に求婚。高貴な姫君なので、紫の上は自らの立場を不安視。
少女 長男夕霧と幼馴染み雲居雁の恋を、頭中将が引き裂く。六条院造営。
玉鬘 夕顔と頭中将の娘で、母の死後孤児となっていた玉鬘が光源氏養女に。
初音 六条院の華やかな正月。二条院には空蝉・末摘花を引き取っている。
胡蝶 玉鬘は多くの貴公子から恋文をもらう。光源氏も実は心惹かれている。
螢 異母弟・螢兵部卿宮に対し、蛍の光で玉鬘の姿を見させる演出をする。
大系三
常夏 和琴を習い始める玉鬘。一方、頭中将の娘、近江・雲居雁はだらしない。
篝火 玉鬘は親切な教育に感謝しているが、添い寝してくる光源氏には困惑。
野分 台風で壊れた六条院を見舞った夕霧は、義母・紫の上に一目惚れする。
行幸 玉鬘の境遇が実父・頭中将に知らされる。裳着の儀。冷泉帝の尚侍に。
藤袴 玉鬘の素性や出仕のことが知れて、玉鬘に求婚していた男達は戸惑う。
真木柱 強引に玉鬘を奪っていった髭黒。本妻が嫉妬に狂い、実家に帰る。
梅枝 明石の姫君が成長し、盛大な裳着の儀が開催される。
藤裏葉 夕霧たちの結婚が認められる。皇太子妃となる明石の姫君は実母と再会。
若菜上 女三の宮が光源氏に降嫁し、紫の上は動揺。柏木が女三の宮を垣間見る。
若菜下 紫の上が病み、光源氏は看病の日々。柏木が女三の宮を妊娠させる。
大系四
柏木 女三の宮は柏木の子である薫を産み、出家してしまう。柏木も衰弱死。
横笛 夕霧は、亡き柏木の妻・落葉宮から遺品の笛を預かり、光源氏に渡す。
鈴虫 出家した女三の宮の面倒も見る光源氏。冷泉院と対面し、感慨に浸る。
夕霧 夕霧は、落葉宮に惹かれていく。雲居雁は嫉妬で実家に帰ってしまう。
御法 紫の上の病は悪化。出家を希望するが、叶わないままに亡くなる。
幻 紫の上の死に悲嘆に暮れる光源氏。彼女の手紙も燃やし、出家を決意。
(この後に「雲隠」。光源氏の死を暗示する巻名だけが伝えられ、本文が存在しない。)
匂宮 光源氏の死から時が経ち、子孫の時代へ。若き薫と匂宮が活躍する。
紅梅 頭中将の息子・紅梅大納言は、夕霧と張り合い、長女を皇太子妃に。
竹河 子だくさんな玉鬘。髭黒の死後、後見を欠いた息子・娘は苦労の日々。
橋姫 薫は仏道の縁で宇治の八の宮と知り合う。娘を垣間見て大君に惹かれる。
椎本 八の宮は「軽々しい結婚はするな」と遺言して死。姉妹を世話する薫。
総角 大君に迫り拒絶された薫。妹の中の君を匂宮に紹介する。大君は死ぬ。
大系五
早蕨 宇治だと遠くてなかなか会えないので、匂宮は中の君を京都に迎える。
宿木 薫が中の君に求愛するが、途中で断念。中の君は匂宮の子を産む。
東屋 中の君は薫に、異母妹の浮舟を紹介。薫は浮舟を宇治の隠し妻とする。
浮舟 匂宮も浮舟に通う。2人の板挟みに悩んだ浮舟は、入水自殺を図る。
蜻蛉 行方不明の浮舟の葬儀を行う。落ち込む2人だが、またすぐ恋に走る。
手習 浮舟は横川の僧都に助けられていた。男女の仲の煩わしさに出家をする。
夢浮橋 浮舟が尼になったことを知った薫は文を送るが、返事はなかった。

以上だが、これは大系の編集上の巻分けなので内容的な構成とはなっていない。この物語は大きく2部に分かれる。すなわち主人公の光源氏が生まれてから死すまでと息子の薫を主人公とする部分だ。も少し詳しく言うとその第一部は光源氏の生い立ちと女性遍歴を記し、須磨に流されたところから都への復帰を記し、晩年の栄華を記した第一部の前半と「若菜上」から始まる光源氏の死へと至る後半部分に分かれる。(またそこに「玉鬘」十帖といわれるちょっと異質な物語がある。)

すなわち前半は須磨への蟄居はあったものの全般に華やか世界が描かれ、後半は沈んだ世界へと移行する。そして死後の息子たちの世界ははじめから華やかな色彩を失っている世界が描かれ「夢浮橋」という題の巻でその世界が閉じられる。

そしてこの物語に流れる一本のすじは光源氏が若い時に犯した罪である。すなわち自分の父の若い後妻である藤壺との密通であり、それが後に自分が迎えた若い女三宮の不義密通によって謂わば復讐される。源氏の死後の息子の世界が暗いのはその息子薫が実は女三宮の不義密通で生まれた子だからである。この物語の基本的な枠組みはここにあると言える。

今回はここまでにしておこう。次回はこの観点からこの物語を本文を紹介しながら読んでみたい。

この項了

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