和歌は室町時代に入ると連歌にその短詩形文学の中心を譲る。しかし、この時代においても和歌は綿々と作られていく。ただ、その内容は形式的になっていき本来の文学的な生命は失われていったように思える。それがかえって和歌に対する反省を促して多くの優れた歌論書が現れたのもこの時代であった。ここに登場する歌人たちはあるいは連歌にその中心を据えたり、歌論にその心血を注いだ人物たちだ。
Contents
『兼好法師集』
ご存知『徒然草』の作者吉田兼好の自選歌集草稿。『風雅和歌集』のためと言われている。
空にのみさそふあらしにもみぢ葉のふりもかくさぬ山の下道
かはりゆく心はかねて知られしを恨みしゆへと思ひけるかな
『慶運百首』
二条派歌人の慶運の自選歌集。
夏山の風こそにほへ蝉の羽のうすはな桜けふや咲らん
『後普光園院殿御百首』
二条良基の自選百首詠。二条良基は『莬玖波集』の編者、すなわち連歌の大成者として知られた人物。ここは短歌のみ。
つらさのみ絶えぬ契りも惜しからで心の限り恨みつるかな
『頓阿法師詠』
二条派の歌人の詠歌集。歌論書『井蛙抄』で知られる。
花の香のさそふ山路をわけゆけば八重立つ雲に春風ぞ吹
『永享五年正徹詠草』
歌僧正徹の詠歌集。正徹も歌論家で『正徹物語』で知られる。
つらきえをつつむ涙の玉柏夏としもなき袖ぞくちゆく
『宝徳二年十一月仙洞歌合』
禁裏公家社会の人々による歌合。
五十二番
左 持 勝
いかにして逢ひ見ることを寝るがうちの夢かと計忍びはてまし
右
忍びわびぬ命にむかふ我中の夢の契りは又も結ばで
『寛正百首』
心敬が参籠中に詠進した歌集。心敬も『ささめごと』でしられる歌論家。連歌もよくする。
今朝はまだこまかによする汀のみ氷てのこる池のさざなみ
『内裏着到百首』
内裏着到とは毎日内裏に参内した時に提出する和歌のこと。それを集めたものとなる。
下消の雪のしづくの氷にも春きてさむき松の色かな
『再昌草』
三条西実隆の日次詠草集。ここは七十歳の一年の日々の歌を集める。
朽ちぬ名を世に残さなん祈こし我も老木の松の言の葉
『玄旨百首』
武人細川幽斎の百首。
恋死なん身の思ひ出に草の原とはんと契る一言もがな
この項了
2017.07.10