成島柳北「柳橋新誌」初編を読む2

街ガイドに止まらない

さて、続きです。
柳橋は花街だけど、芸者がいたわけで女郎がいたわけではない。芸を売っていたわけで、色を売っていたわけではない。とはいうものの、やはり柳北の言に従えば「敢へて売らざるの色を売らしむ」のが人情だろう。「之を転ず(コロバス)と謂ふ」らしい。そのコロバシ方を説いているのだ。いわば芸者を我が物にするノウハウを説いている。

柳北曰く「夫れ妓を転ずるや、易きに似て難く、難きに似て易し。」と。どういうことかというと「三難三易」があって、まずはそこを理解しろと。

まず難点は
難点の一、「公禁を犯して私姦を為す」という点
難点の二、女郎と違って、「男子の才貌を択ぶ」という点
難点の三、「強ひて事を成すを得ず」という点
要するに選択権が芸者の方にあるという事だろう。

では易し点は
易し点の一、「彼も亦人なり。豈に情なからんや」という点
易し点の二、「風月煙花の遊びに慣る。人家の嬢子、深厳自ら守る者と同じからず」という点
易し点の三、お金に弱いという点
ここは芸者にも人情があり、普通の娘と違って遊びに慣れているし、何よりお金に弱いという事だろう。

さらに面白いのはこの「三難三易」を理解したからといってうまくいくわけではなく、男の方に「転妓の具、三あり。曰く才、曰く貌、曰く金。」特に「金」がなくてはならないと説いていて、しかもこれを事細かに論じているところだ。
なかなか「財力・教養・美貌」三拍子揃う事はむずかしい。まずこの中で「財力」は必須であるとする。教養がなくても、顔が悪くてもどちらかが「金」にプラスしてあればうまくいく。「美貌」だけ、「教養」だけは無理だろうとしている。しかし、ここからが柳北らしいのだが、「美貌」は天性のものだからどうにもならないが、「教養」は努力で身につくものだしそれによって突破できる可能性はあるとしている点だ。

これは柳北の願望かもしれない。「金」が基本の世界と知りつつ、「才子佳人」の風景を柳橋に求めていたのだろう。

柳北は幕府の奥儒者です

ここで改めて作者成島柳北が幕府の将軍侍講の奥儒者だったことを書いておきたい。当時の一番の権力者の近くにいて学問を講ずる立場の人間だったんです。

これはまた後で。

 

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